相続の承認・放棄について
今回は、少し応用編として「相続の承認・放棄」という制度についてご説明します。
特に「相続放棄」は良く用いられています。
目 次
相続人の選択権
相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。権利「義務」とあることから、相続人は、被相続人の財産のみならず債務(借金など)の一切も承継することになります。そこで、相続人には権利義務を承継するか否かの選択権が認められており「単純承認」「限定承認」もしくは「相続放棄」という制度があります。
熟慮期間(じゅくりょきかん)とは
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければなりません(民法915条①本文)。この3か月以内のことを「熟慮期間」と呼びます。自分がどうするかじっくりと熟慮すべき期間なのですが、少し短すぎるような気もしますよね。
では、いつから起算するのでしょうか。また、その期間を延ばすことなどはできないのでしょうか。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは
自己のために相続の開始があったことを知った時とは、「被相続人が死亡した事実及び自己が相続人であることを相続人が知った時」(大判大15・8・3民集5・679)とされています。ただし、相続人が相続財産の全部又は相続放棄の申述をしなかった相続人が被相続人に相続財産が全くないと信じ、かつそう信じたことに相当の理由があると認められる場合は、「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常認識し得る時」(最判昭59・4・27民集38・6・698)とされました。
相続人が複数いる場合はどうなる?
相続人が複数いる場合は、熟慮期間は「相続人ごと」に個別に判断します(最判昭51・7・1家月29・2・91)。各相続人が自己のために相続が開始した事実を知ったそれぞれの時点が各相続人の熟慮期間の起算点となります。
期間を延ばすことはできるの?
相続財産や相続人の状況により、相続財産の調査・確定に3か月以上の日数を要する事情がある場合、熟慮期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができます(民法915①ただし書)。
熟慮期間の伸長の申立ては、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所に、3か月の熟慮期間内にする必要があります。相続が開始した地とは、被相続人の最後の住所のことをいいます(民法883)。相続人が複数いる場合は、相続人ごとにする必要があります。
単純承認(たんじゅんしょうにん)とは
言葉のとおり相続人が単純に承認した場合なのですが、意思表示による場合や上記の熟慮期間を経過した場合、承認しただろうとみられる行為を行った場合(民法921条に「法定」されているため法定単純承認といいます)なども含まれます。単純承認すると無限に被相続人の権利義務を承継します(民法920)。
限定承認(げんていしょうにん)とは
限定承認とは、熟慮期間内に被相続人の財産のうちプラスのもの(不動産など)とマイナスのもの(債務や遺贈など)どちらが多いのか確定することが難しい場合に、マイナスのものは相続によって得たプラスの財産で返済等して結果プラスのものが多い場合に相続人が取得しますと限定して承認することをいいます。(民法922)。
限定承認をするには、熟慮期間内に財産目録を作成し家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述する必要があり、また、相続人が複数いるときは共同相続人の全員が共同してしなければならない(民法923)など、他の手続きに比べると手続きが厄介な面があるため、あまりおススメはできません。
相続放棄(そうぞくほうき)とは
相続放棄とは、相続人が自分に生じた相続の効力を否定する意思表示をすることで、その相続人が、その相続に関しては初めから相続人ではなかったものとみなされること(民法939)をいいます。被相続人の債務がプラスの相続財産を上回ってしまっている場合などに、相続人が債務を負いたくない、といった場合における救済的な制度となっています。
相続放棄は、放棄をしようとする相続人が、熟慮期間内にその旨を家庭裁判所に申述してする必要はありますが、限定承認が共同相続人全員で行う必要があるのに対し、相続放棄は一人ですることができますので、限定承認ほど手続きとして厄介な面はないかと思います。
相続放棄は「絶対的」
相続放棄は「絶対的」だといわれます。この「絶対的」というのは、とにかくどのような場面においても誰に対しても相続放棄の効果が及ぶということです(最判昭42・1・20民集21・1・16)。例えば、相続放棄は代襲原因になりません(民法887)。相続人Aの代襲相続人となるべき者Bがいても、相続人Aが相続放棄をした場合はBの代襲相続は認められません。
とにかく絶対的なのです。
以上、自分が相続した場合にどのような手続きがあるのかについて代表的な3つものを説明させていただきました。より詳細な情報や実際どのような書類をどう書いて提出したらよいかなど、ぜひ司法書士までご相談くださいね。
投稿者プロフィール
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川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
お客様の悩みに寄り添い、身近な法律・登記の専門家としてその解決に向けたお手伝いをさせていただきます。困ったことがありましたらどうぞお気軽にご相談ください。
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