相続における遺留分について②

Kuroshoshi

前回では遺留分の割合の求め方を具体例を使ってお話しました。今回は遺留分額と、実際に遺留分侵害額請求をする場合の請求できる額(侵害額)の算定についてです。
計算式がありますが、具体例でみていきましょう。

遺留分額と侵害額

1.遺留分額

Aは、死亡する10か月前に、所有している1,000万円相当の土地をCに贈与しました。また、所有している500万円相当の建物をDに、100万円相当の自動車をEに遺贈する遺言を作成しました。
Aの相続人は、子Bのみです。
Aは、死亡時、預金2,000万円、借金1,000万円、Dに遺贈する500万円相当の建物、Eに遺贈する100万円相当の自動車を有していました。
Bの遺留分額はいくらになりますか?

まず、前回の最後に算定式を示した「遺留分算定の基礎となる財産」を求めます。

遺留分算定の基礎となる財産の算定式

遺留分算定の基礎となる財産 = ①死亡時のプラスの財産+②贈与した財産の価額-③債務の全額

①死亡時のプラス財産は、預金2,000万円 + 建物500万円 + 自動車100万円 = 2,600万円
②贈与した財産の価格は、1,000万円
③債務の全額は、1,000万円

ですので、上記の算定式に当てはめると「遺留分算定の基礎となる財産」は、
①2,600万円 + ②1,000万円 - ③1,000万円 = 2,600万円 となります。

「死亡時のプラスの財産」について

 死亡時のプラスの財産には、遺贈死因贈与契約によって処分された財産が含まれます。死亡時にまだある財産であるからです。

「贈与した財産の価額」について

 贈与した財産の価額には、以下のものが該当し、遺留分の基礎となる財産に含まれます(民1044)。

  1. 相続人に対する贈与のうち相続開始前10年間にした贈与(特別受益)
    (婚姻等のための贈与や整形の資本としての贈与の場合)
  2. 相続人以外の者に対する贈与のうち相続開始前1年間にした贈与
  3. 当事者双方が遺留分権利者を害することを知ってした贈与
    年数制限はなく、何年前のものであってもさかのぼって戻される)

 もっとも、全財産を一度に贈与した場合は、相続人に対する贈与や、孫等に対する贈与であったとしても「遺留分権利者を害することを知ってした贈与」とされて、年数制限なく遺留分の基礎となる財産に含まれることもありますので、注意が必要です。

 遺留分額は、この遺留分算定の基礎となる財産に各遺留分権利者の遺留分の割合をかけます。

遺留分額の算定式

遺留分額 = 遺留分算定の基礎となる財産 × 各遺留分権利者の遺留分の割合

 各遺留分権利者の遺留分の割合は前回の遺留分権利者全員の遺留分の割合で示したとおり「2分の1」となりますので「Bの遺留分額」は、

2,600万円 × 2分の1 = 1,300万円 となります(Bの法定相続分はB1人のみなので「1分の1」です)。

2.実際に遺留分侵害額請求をする場合の請求できる額(侵害額)

 遺留分権利者は、上記の遺留分額全額について、受遺者等の遺留分を支払うべき者(「遺留分義務者」といいます)から支払いを受けられるというわけではありません。生前贈与や死因贈与、遺贈のいずれもなければ、遺留分の侵害額は「0」となるからです。生前贈与、死因贈与、遺贈のない相続は多いため、「遺留分額はあるけれど、侵害額は0」というケースは多いかと思います。

 では下記事例をもとに、実際に侵害額がある場合の侵害額の求め方をみていきましょう。

Aは、死亡する10か月前に、所有している1,000万円相当の土地をCに贈与しました。また、所有している500万円相当の建物をDに、所有している100万円相当の自動車をEに遺贈する遺言を作成しました。
Aの相続人はBのみです。
Aは死亡時、借金1,000万円、Dに遺贈する500万円相当の建物、Eに遺贈する100万円相当の自動車を有していました。
Bは、C、D、Eの誰に対して遺留分侵害額請求をすることができるでしょうか。

まず「Bの遺留分額」を上記1.の算定式によって求めますと、

①死亡時のプラス財産は、建物500万円 + 自動車100万円 = 600万円
②贈与した財産の価格は、1,000万円
③債務の全額は、1,000万円

ですので、上記の算定式に当てはめると「遺留分算定の基礎となる財産」は、
①600万円 + ②1,000万円 - ③1,000万円 = 600万円 となります。

 各遺留分権利者の遺留分の割合は前回の遺留分権利者全員の遺留分の割合で示したとおり「2分の1」となりますので「Bの遺留分額」は、

600万円 × 2分の1 = 300万円 となります(Bの法定相続分はB1人のみなので「1分の1」です)。

次に、「侵害額」を求めます。

侵害額の算定式

侵害額 = 遺留分額 - (①遺留分権利者が実際に得たプラスの財産(自身が受ける遺贈や遺産分割協議による具体的法定相続分)+②遺留分権利者が受けた特別受益額(年数制限はなし)-③遺留分権利者が実際に承継する債務額)

 上記の算定式の「カッコ内の部分」は「Bが実際にもらっている額」となります。
 侵害額は実際に遺留分を侵害しているかどうかという問題ですので、その遺留分権利者(B)が実際にもらっている額は引きます。なお、債務については、債務が1,000万円だとすると、「-1,000万円もらっている」と考えます。

よって侵害額を上記の算定式に当てはめると、

①Bが実際に得たプラスの財産は、0円
②Bが受けた特別受益額は、0円
③Bが実際に承継する債務額は、1,000万円

となり、

侵害額 = 遺留分額300万円-(①0円+②0円-③1,000万円)= 1,300万円 となります。

この侵害額1,300万円については、Dに500万円、Eに100万円、Cに700万円の遺留分侵害額請求をすることができます。DEへの遺贈に対しての請求がCへの贈与に対する請求より先となっていますが、被相続人の死により近いほう(新しいほう)から相殺したほうが影響が少ないだろうという考えによるものです。

以上、計算式が出てきて複雑に思われたかもしれません。どうしてもわかりづらいなと思った場合は、専門家である司法書士や税理士などに相談してみてくださいね。

投稿者プロフィール

川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
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