相続土地国庫帰属制度について
土地を相続した場合でも管理費用だけかかって特に活用する予定もなく、売却なども難しいといった場合があるかと思います。そのような状態を解消するため「相続した土地を国に帰属させることのできる制度」が創設されました。
目 次
相続土地国庫帰属制度(そうぞくとちこっこきぞくせいど)とは
相続によって土地の所有権を取得したけれども、その土地を利用する見込みがなかったり、売却等の処分もできずそのまま放置しているといったケースがあるかと思います。これがそのまま長い間続くと、相続が何度も発生し所有者が誰であるか複雑になったり、土地の管理を誰がするかといった問題が生じるおそれが出てきます。
そこで、こういった問題が生じるのを防ぐため「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号。以下「相続土地国庫帰属法」といいます)により、相続又は相続人に対する遺贈により土地の所有権の全部又は一部を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることのできる制度(相続土地国庫帰属制度)が創設されました。同法律は、令和5年4月27日から施行されましたが、その施行前に取得した土地についても対象となります。
相続土地国庫帰属制度の主な流れ
相続土地国庫帰属制度により国庫に帰属するまでの大まかな流れは以下になります。
- 1.法務大臣(法務局)へ国庫帰属の承認申請
- ・申請要件あり
・審査手数料納付(土地1筆あたり14,000円)
- 2.法務大臣(法務局)による要件審査・承認
- ・書面審査、実地調査等
- 3.負担金の納付
- ・10年分の土地管理費用等相当額
- 4.国庫に帰属
- ・普通財産として管理・処分
当該申請にかかる土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に対して行い(同施行規則1)、その受付、審査、承認、負担金の算定等についても、原則として、当該法務局又は地方法務局の長が行うものとされています(同法15①、同法施行規則22)。
以下、主な流れについて一つ一つみていきます。
1.法務大臣(法務局)へ国庫帰属の承認の申請
相続土地国庫帰属法では、「相続又は相続人に対する遺贈により土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限って、法務大臣に対し、審査手数料を納付して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認をもとめることができる」とされています(同法2①、3②)。建物は含まれず、あくまで土地のみとなります。
数人が共有している場合は、共有者全員が共同して承認を申請することが必要です。その場合、相続等以外の原因で共有持分を取得した者であっても、相続等により共有持分を取得した共有者と共同して行うときに限って、承認申請をすることができます(同法2②)。
承認申請できない場合
上記に該当する土地であっても、通常の管理又は処分に当たって過大な費用や労力を必要とする土地、例えば
- 建物等がある土地
- 土壌汚染や埋設物がある土地
- 境界が明らかでない土地
- 担保権等の権利が設定されている土地
- 通路など他人による使用が予定されている土地
等については、承認の申請ができません(同法2③)。
「まっさらできれいな土地」といったイメージです。申請する場合はこのような土地でないかを事前に調べておく必要がありますね。
承認の申請は、承認申請書及び添付書類を提出し、所定の※審査手数料を納付しておこないます。
※審査手数料について
土地1筆あたり、14,000円となっています。
審査手数料は土地一筆ごとに納付が必要であり、隣接した複数の土地について申請を行う場合であっても、合算はできません。
2.法務大臣(法務局)による要件審査・承認
法務大臣は、審査のため必要があると認めるときは、その職員に事実の調査をさせることができます(同法6①)。実際に見にいかないとわからないこともあるため、調査ができることになっています。
法務大臣は、申請土地につき国庫帰属を承認したとき又は承認しないこととしたときは、承認申請者に通知します(同法9)。
3.負担金の納付及び4.国庫に帰属
承認申請者は、法務大臣の承認があったときは、承認に係る土地につき、その※負担金(国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を勘案して政令で定めるところにより算定した額)を納付しなければなりません(同法10①、同法施行令5①各号)。ただで管理してもらえるわけではなく、10年分の管理費用を負担金として納付する必要があります。
※負担金の計算について
負担金の基準となる土地の区分申請があった土地は、「宅地」「農地」「森林」「その他」の4種類に区分され、この区分に応じて納付が必要となる負担金を決定します。
負担金の計算に用いる面積(地積)は、登記記録上の地積を基準とします。なお、現況で負担金を計算できる場合もあります。
「宅地」と「農地」「その他」については面積にかかわらす原則20万円で、例外的にその性質に応じて面積で計算します。「森林」は面積によって計算します。
※ 詳細については下記法務省ホームページに、負担金の自動計算シートが掲載されていますのでご参照ください。https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html
負担金を納付したときに、土地の所有権が国庫に帰属し、逆に納付しなかった場合は、承認の効力が失われます(同法10③)。
いかがでしたでしょうか。
もしご自分が土地を相続した場合に上記に該当するようなことがあれば、この制度を活用してみるとよいかもしれません。なお、制度の概要や手続きの詳細については法務省のホームページに掲載されていますので、気になった方は見てみてくださいね。
投稿者プロフィール
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川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
お客様の悩みに寄り添い、身近な法律・登記の専門家としてその解決に向けたお手伝いをさせていただきます。困ったことがありましたらどうぞお気軽にご相談ください。
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