遺産分割協議までの相続財産の帰属について

Kuroshoshi

今回は、被相続人が亡くなってから実際に遺産分割協議をするまでにその相続財産はどのような状態にあるのか、についてお話します。よくご質問いただくのは被相続人の預貯金についてです。

相続財産の共有

 複数の相続人がいる場合、遺産分割協議がされるまでは、相続財産は相続人全員で共有することになります(民898)。この「共有」という状態の意味は、民法249条以下の通常の共有としての性質を有する(最判昭30.5.31民集9巻6号793頁)ということです。

ただし、以下の場合は相続人が複数いる場合でも共有とはならず、単独で各相続人に帰属します。

  1. 損害賠償債権のような可分債権、あるいは可分債務
    (→分割単独債権・債務として各共同相続人に帰属)
  2. 特定財産承継遺言の目的物
  3. 特定遺贈死因贈与の目的物

 ここで、改めて共有となるということはどういうことかというと「遺産分割協議の対象となる=遺産分割が必要」ということです。逆に、共有とならない場合は、遺産分割協議の対象とならず、遺産分割が不要ということになります。以下、具体的に見ていきたいと思います。

物権の場合

 不動産や動産の所有権を共同相続した場合、共同相続人間の共有となり、遺産分割の対象となります。各共同相続人は、遺産分割前の相続財産中の不動産や動産の共有持分を譲渡することができます。

 一方、担保物件(抵当権など)を相続した場合は、担保物権自体は独立して遺産分割の対象とはならず、被担保債権の帰属に従います

債権・債務の場合

 債権・債務は原則として、相続によって共有とはならず当然に分割されます(最判29.4.8)。分割されるということは遺産分割が不要ということです。

 例えば賃料債権の場合、相続財産の中に賃貸不動産がある場合における、被相続人の死亡時から遺産分割までの間にその賃貸不動産から生じた賃料債権は、当然に分割されます(最判平17.9.8)。よって相続人の1人が自分の相続分に応じた賃料を賃借人に請求できます。

賃料債務の場合

 ここは少し細かくわかりづらいところではありますが、賃料債務の場合、賃料債権と同じように金銭に関する債務なので当然に分割されるように思われるかもしれませんが、実は「債務の目的が性質上不可分である債権(民430)=不可分債務」とされ当然に分割されません

 よって、共同相続人(賃借人)は、各人が全部について履行する義務を負い、債権者(賃貸人)は、共同相続人の1人または全員に対して全部の履行を請求することができます(民430、436)。

 賃料支払債務が不可分債務となるのは、賃料支払債務が賃貸人の「使用収益させる義務」の対価だからです。使用収益させる義務は分割することができません。不可分な給付の対価であるため、賃料支払債務も不可分債務となります。

 なお、 平成29年の民法改正前は、このように賃料支払債務を不可分債務と考えることで問題はありませんでしたが、平成29年の改正により不可分債務は「債務の目的がその性質上不可分」と定義されたので(民430)、「性質上不可分」の今後の解釈によっては、不可分債務ではないと解される余地はあります。

預貯金債権は共有となる

 例外として、債権であっても預貯金債権(例えば「金融機関に対する普通預金債権」など)は共有となり、当然に分割されません(最大決平28.12.19)。つまり遺産分割協議が必要=遺産分割の対象となるということです。

 従前、預貯金債権は当然に分割され、これにより各共同相続人は自己に帰属した債権を単独で行使することができると解されていました(最判平16.4.20)が、判例が変更されました。

 その理由としては、預貯金債権は遺産のかなりの割合を占め、遺産分割の対象とすることが相続人間の公平に合致する場合が少なくないことから、相続人全員の明示又は黙示の合意があれば、遺産分割の対象に含めることができるとするのが審判実務の取扱いとされており(東高決平14.2.15)、また、共同相続人間の協議では、預貯金債権を含めるのが通例であったためです。また、現金は債権ではないので当然には分割されませんが(最判平4.4.10)、預貯金債権は現金に近く、現金同様に遺産分割協議における調整に資することも理由です。

遺産分割前の預貯金債権(払戻し権)の行使

 葬儀代や当面の生活費などが必要なこともありますので、遺産分割前でも、以下の額は各相続人が単独で引き出すことができます(民909の2前段)。

各相続人が単独で引き出すことのできる額

預貯金債権 × 3分の1 × 法定相続分

ただし、各金融機関ごとに引き出すことのできる額は150万円までとされています。

 引き出した預貯金債権は、その引き出した相続人が遺産の一部の分割により取得したものとみなされます(民法909の2後段)。

投稿者プロフィール

川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
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