配偶者がいない場合の相続について①~後見・信託~

Kuroshoshi

子供がいない場合の相続についてのお話は以前させていただいておりましたが、今回より数回にわけて「配偶者」がいない場合の相続についてお話いたします。どのようなことに気を付けておいたほうがよいのでしょうか。

配偶者がいない場合の相続人

 まず、自分に配偶者がいない場合に誰が相続人になるのかを確認しておきましょう。

1.嫡出子、認知した子(亡くなっていれば孫)
 「嫡出子(現在離婚してしまっているが、婚姻時に生まれた子」もしくは「婚姻外で生まれたけれども認知した子」がいれば、その子が第1順位で相続人になります。子は亡くなっているが孫(亡くなった子の子)がいれば孫がなります。
2.親(直系尊属)
 1.がいなければ、親(直系尊属)が第2順位で相続人となります。
3.兄弟姉妹(亡くなっていれば甥、姪)
 1.も2.もいなければ兄弟姉妹(亡くなっていれば甥、姪)が第3順位で相続人となります。

配偶者がいない場合の財産管理はどうする?

 配偶者がいない場合における財産管理の方法としては、自分にまだ判断能力がある場合と、判断能力がない場合にわけてそれぞれ利用できる制度がことなります。

判断能力がまだある場合

 例えば「もう70歳も過ぎ、最近判断能力や記憶力の衰えを感じ不安である。財産はあるけれども、弟は遠くに住んでおり、近くに上記のような頼れる相続人がいない場合」の財産管理については、その不安をどう解消したらよいでしょうか。判断能力がまだある場合です。
 この場合は、任意後見制度や、信託制度の利用が考えられます。

任意後見制度(にんいこうけんせいど)について

 任意後見制度とは、判断能力が低下した場合に備えて、自分が元気なうちに後見人となる者を指名し、その後見人に任せる事務内容をあらかじめ定めておく制度です。後見人は、判断能力が低下した本人に代わって財産を管理したり、契約を締結するなどします。要は、元気なうちに「将来自分が判断能力が低下してしまったら財産管理をお願いします」という契約をしておく、ということです。

任意後見人には誰がなれるの?

 任意後見人には家族親族はもちろん、弁護士・司法書士などの専門家がなることができます。あくまで「任意」の後見人ですので自分が信頼できると思える人にお願いし、任意後見契約(公証人が作成する公正証書により締結)を締結することで成立します(任意後見契約に関する法律(以下、任意後見)3)。

 任意後見人に対しては、任意後見契約に基づく報酬を支払う必要があります。

任意後見監督人とは?

 本人の判断能力が低下した場合に、任意後見受任者(後見人予定者)などが家庭裁判所に「任意後見監督人(任意後見人の職務を監督する人)」の選任を申立て、選任されると、任意後見の効力が生じます。任意後見監督人が選任されることにより、任意後見人による財産管理が開始されるのです(任意後見2、4)。

 任意後見監督人に対しては、家庭裁判所が定める報酬を支払う必要があります。

信託制度(しんたくせいど)について

 信託とは、自分(お願いする人=委託者)の判断能力が低下する前に、信託契約や遺言等によって、その信頼できる人(お願いされる人=受託者)に対して財産を譲渡し、受託者は委託者の信託目的に従って、例えば自分(その利益を得る人=受益者)のためにその財産の管理・処分をするという制度のことをいいます(信託法2①)。

 登場人物は「委託者」「受託者」「受益者」の3人ですが、委託者=受益者とすることもできますので、受託者に対して「自分の財産をあげるからその財産を自分のために管理・処分してね」ということをお願いする、という制度となります。また、受益者のために受託者を監視・監督する信託監督人を選任することもできます。

判断能力が低下してしまった場合

 例えば「自分が認知症になってしまった場合」の財産管理については、どのような方法があるでしょうか。認知症になってしまい、判断能力が低下してしまった場合の財産管理方法についてです。
 この場合は、法定後見制度の利用が考えられます。

法定後見制度(ほうていこうけんせいど)について

 認知症になるなどして判断能力が低下してからでは、上記のような任意後見契約や信託契約を締結することは原則としてできません。その場合は、法定後見制度を利用することで財産の管理をすることができます。

 法定後見制度とは、認知症、精神障害などにより判断能力が不十分な人を、家庭裁判所により選任された成年後見人等が法律的に支援する制度です。本人の判断能力の程度に応じて、後見保佐補助の3種類があります。選任してもらうには、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見人、任貢献受任者などが、家庭裁判所に対して法定後見の申立てをする必要があります。

後見、保佐、補助の違いは?

  • 後見
     後見制度の対象者(=「成年後見人」といいます)は、精神上の障害により、判断能力を欠く常況にある人です(民7)。後見が開始されると、成年後見人は、日用品の購入や日常生活に関する行為は自分でできますが(民9但書)、それ以外の行為は後見する人(=「成年後見人」といいます)が代理権を有しており(民859)、Aが行った法律行為は原則取り消すことができます(民9本文)。
     つまり、代理権の付与が必須ということです。
  • 保佐
     保佐の対象者(=「保佐人」といいます)は、精神上の障害により、判断能力が著しく不十分である人です(民11)。補佐が開始されると、保佐人は、民法13条1項各号所定の行為(借金や不動産の処分など重要な法律行為)及びそれ以外で保佐人の同意のもと家庭裁判所の審判によって定められた行為については、保佐する人(=「保佐人」といいます)の同意が必要となります。また、それ以外で保佐人に対し、保佐人の同意のもと家庭裁判所の審判によって定められた行為について、代理権を付与することができます(民876の4)。
     つまり、同意権の付与については必須で、代理権の付与は任意ということです。
  • 補助
     補助の対象者(=「補助人」といいます)は、精神上の障害により、判断能力が不十分である人です(民15)。被補助人の行為については、被保佐人のように民法所定の行為というのはありません。家庭裁判所の審判によって定められた特定の法律行為について、補助する人(=補助人といいます)に対して同意権代理権を付与することができます(民17、876の9)。
     つまり、同意権や代理権の付与は任意ということです。

     被補助人は成年被後見人らに比べ不十分ながらも判断能力がありますので、そもそも同意見や代理権を付与するか否か、どのような行為に付与するかについて、補助人の同意等が必要とされています(民15②、17②)。

 

投稿者プロフィール

川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
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