葬儀費用の金融機関からの預金引き出しについて
被相続人の死後は、葬儀費用など様々な費用が必要なこともあり、遺産分割を待っていられないこともあります。そんなときに預金が引き出せないとなると困りますよね。そこで、平成30年の民法改正により、ある一定額まで引き出せる制度ができました。
葬儀費用は預貯金から引き出せるの?
被相続人に預貯金がある場合、相続人らは、遺産分割協議を行ったうえでなければその預貯金の引き出しができないのが原則です。預貯金は、現金と同様に相続によって当然に分割されないためです。
ただ、被相続人の死後は、被相続にの入院費用や葬儀代、家賃の清算等様々な費用がかかります。このような現実があることから、例外として、遺産分割前でも、以下の額は各相続人が単独で引き出すことができます。
各相続人が単独で引き出すことのできる額
遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の債権額 × 3分の1 × 法定相続分
(民909の2前段)(同条に関する省令で債務者である各金融機関ごとに150万円まで)
なお、引き出しを行った相続人は、遺産の一部分割で金額を取得したものとみなされますので、後の遺産分割においては、すでにその金額を取得したものとして計算されます(民909の2後段)。
この遺産分割前の預貯金債権の行使の規定は、平成30年の改正で新設されました。
引き出すことのできる預貯金はどれくらい?
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先日、一人暮らしをしていた母が亡くなりました。父はすでに亡くなっており、相続人は私と姉の2人のみです。母の預金には、A銀行X支店に100万円、A銀行Y支店に50万円、B銀行Z支店に1,200万円あります。引き出すことのできる預貯金はいくらになりますでしょうか。
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相続開始時の預貯金債権残高は、A銀行が150万円、B銀行が1,200万円です。法定相続人は子の2人で、相続分はそれぞれ2分の1ですので、それぞれの銀行からの引き出すことのできる金額は、
- A銀行・・・150万円 × 3分の1 × 2分の1 = 25万円
- B銀行・・・1,200万円 × 3分の1 × 2分の1 = 200万円 で 150万円
となります。
各金融機関ごとに150万円までと上限が決まっていますので、B銀行は150万円となります。
葬儀費用のための預貯金の引き出しが相続の承認にあたるか
相続した負債が多額で相続放棄を検討すべき場合であっても、社会的に一般的な金額の葬儀代を預貯金から引き出しても、法定単純承認である「相続財産の処分」(民921)とはならないとした裁判例は確かにあります。
(法定単純承認とは、「そんなことをするってことは、相続について承認したってことでしょ」と考えられる場合に相続について包括的に承認したものとする制度のことをいいます。)
ただし、葬儀代として社会的に一般的な額を超えた不相当な金額を引き出した場合は、法定単純承認があったとみられ相続放棄ができなくなる可能性はありますので、注意が必要です。
相続放棄の観点からも、預貯金の引き出しが必要なのか、いくら引き出すのかにつていは慎重に考えましょう。
投稿者プロフィール
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川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
お客様の悩みに寄り添い、身近な法律・登記の専門家としてその解決に向けたお手伝いをさせていただきます。困ったことがありましたらどうぞお気軽にご相談ください。
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