相続人に行方不明者がいる場合について

Kuroshoshi

今回は、いざ相続が開始して相続人全員で遺産分割協議をしなければならないのに、相続人に行方不明者がいる場合どのようにしたらよいかについてお話したいと思います。

まずは行方不明者の捜索から

 遺産分割協議や限定承認は相続人全員でしなければならないので、相続人に行方不明者がいると手続自体が不可能になってしまします。まずは行方不明者を探し、何らかの形で連絡をとり、相続開始の事実を伝えて手続きの協力を求める必要があります。

 捜す手段としてはまずは、

  • 現住所を確認して現地を訪問してみる
  • 郵便で手紙を送ってみる

ことが挙げられます。

現住所が不明な場合

現住所が不明な場合は、被相続人の戸籍から順にたどって行方不明である相続人の本籍を確認し、当該本籍地で戸籍の附票の写しを取得すれば確認することができます。

 現住所が特定できたとしても、実際にはその地に住んでおらず見つからない可能性もあります。その場合は、警察に行方不明届を出す、探偵業者に依頼してみるなどの方法で発見に努めることになります。

不在者財産管理人(ふざいしゃざいさんかんりにん)の選任

 行方不明者を捜索して発見できなかった場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を求めることになります。「不在者」とは、「従来の住所又は居所を去った者(民法25①)」をいい、従来の住所からいなくなってしまったりして連絡が不通になってしまった人のことをいいます。

 不在者がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる(民法25①)と定められており、「必要な処分」とは、具体的人は不在者財産管理人の選任を指します。

不在者財産管理人の権限

 家庭裁判所が選任した不在者の財産管理人ができることは、以下の3つの行為に限られます。

  1. 保存行為
    財産を維持する行為です。例えば、家屋の修繕などです。
  2. 利用行為(物や権利の性質を変えない範囲で許されます。)
    財産を基に収益を得る行為です。例えば、賃貸や預貯金などです。
  3. 改良行為(物や権利の性質を変えない範囲で許されます。)
    財産の価値を増加する行為です。例えば、家屋に電気・ガスの設備を施すなどです。

 つまり、その財産がなくなってしまわないことに限って認められています。

 それに対して、これらの範囲を超える処分行為(例えば、売却、抵当権の設定、遺産分割など)をするときは、家庭裁判所の許可が必要となります(民法28・103)。その財産がなくなることにつながるからです。

失踪宣告(しっそうせんこく)とは

 より長く行方不明の期間が長期間となってしまった場合は、失踪宣告の申立てを行います。
 失踪宣告とは「不在者の生死不明の状態が一定期間継続した場合に、その者を死亡したものとみなす」制度のことをいいます。

 失踪宣告には行方不明の状況により、以下の2つの種類があります。

  1. 普通失踪(ふつうしっそう)
    不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができます(民法30①)。失踪宣告により、不在者は「7年間の失踪期間が満了した時点」で死亡したものとみなされます(民31)。
  2. 特別失踪(とくべつしっそう)
    不在者が生死不明となった原因が、戦争、船舶等の沈没、天災などの危難に遭遇したものである場合は、それらの危難が去って1年間生死が明らかでないときは、失踪の宣告をすることができます(民30②)。普通失踪と異なり、特別失踪では「危難が去った時」に死亡したものとみなされます(民31)。

失踪宣告の効果

 失踪宣告により死亡したものとみなされることにより、婚姻は解消され配偶者は再婚することができるようになり、相続が開始します(民882)。

 ただし、実際にその人が死亡したとは限りません。そのため、失踪宣告と同時に権利能力がなくなってしまうわけではなく、失踪者がどこかで生きていた場合、例えば失踪者が失踪先のスーパーで食料を買ったとしてもそれが無効となるわけではありません。

失踪宣告の取消し

 失踪宣告がなされた後に、失踪者が生存していること、又は失踪宣告により死亡したとみなされた時期と異なる時期に死亡したことが証明されたときは、本人又は利害関係人の請求により、失踪宣告は取り消されます(民32①前段)。つまり、失踪者は最初から生きていたことになります。

 失踪宣告の取消しにより、失踪者の死亡したとみなされたことによる法律効果は全て生じなかったことになりますが、影響が大きいです。例えば、相続人は失踪者の財産を相続していなかったことになり、また相続人(無権利者)から相続財産を譲り受けた者は、その財産を取得できないことになります。

 これでは予想外の事態となってしまいますので、失踪宣告の取消しは「失踪宣告後その取消し前に善意でした行為の効力には影響を及ぼさない」とされています(民32①後段)。つまり、善意で行われた相続財産の売却や失踪者の配偶者の再婚などは、取消し後も効力を維持することになります。

取り消された場合の返還範囲

 失踪宣告によって財産を得た者は、取消しによって権利を失いますが、「現に利益を受けている限度」で返還すれば足ります(民32②)。

「現に利益を受けている限度」とは

「現に利益を受けている限度」(「現存利益」といいます)とは、受けた利益がそのまま、または、形を変えて残っている場合をいいます。簡単にいうと「残っているもの」ということです。
 例えばギャンブルなどで浪費してしまった場合は残っていませんので、現存利益はなく、その浪費した分を返還する必要はありません。

投稿者プロフィール

川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
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