会社の設立について③株式と事業年度と公告方法を決める
今回は前回に引き続き、会社を設立するのに必要な会社概要を決めるにあたって「株式数」「事業年度」「公告方法」についてのお話です。
目 次
会社設立の基本的な流れ
会社を設立するには基本的に以下の手順が必要となります。
- 会社概要の決定
会社名(商号)、目的(事業内容)、本店所在地、資本金、役員構成など(株式、事業年度、公告方法など)を決定します。 - 定款の作成
会社のルールを定めた「定款(ていかん)」を作成します。 - 定款の認証
株式会社の場合、公証人による定款の認証が必要です。 - 資本金の払い込み
金融機関に資本金を払い込みます。これにより会社の運転資金が確保されます。 - 登記申請・完了
必要な書類を準備し、法務局に登記申請を行います。
1.会社概要の決定
会社名(商号)、目的(事業内容)、本店所在地、資本金、役員構成などの会社概要を決めるにあたっていくつか注意すべき点があります。このうち今回は①会社概要(株式、事業年度、公告方法)を決めるにあたっての注意点です。
株式を決める際の注意点
株式を決めるとは、実際に発行する株式数(「発行済株式数」、設立時は「設立時発行株式数」といいます)と、将来発行できる株式数の上限(「発行可能株式総数」といいます)を決めるということです。ちなみに「株式」には種類(普通株式や優先株式など)もあるのですが、これは少し細かいので別途改めて記事にしたいと思います。
発行済株式数
発行済株式数は、実際に発行する株式のことで、設立時の出資額に応じて初期株主の持ち分(株主総会の議決権比率)が決まります。
例)1株当たり1万円の株式を1000株発行(発行済株式数1000株)し、Aさんが800株、Bさんが200株を引き受けた場合
→Aさんは1万円×800株=8百万円、Bさんは1万円×200株=200万円を出資し、株式の持ち分(議決権)比率は、
Aさん:Bさん = 800:200 = 4:1 となります。
また将来、新たに株式を発行して増資を行う場合、発行済株式が増加します。
発行可能株式総数
発行可能株式総数は、将来の事業拡大や資金調達に備え、どれだけ株式を発行できるかの上限となります。もしこの上限がなく無制限に株式を発行できるとすると、既存株主の持ち分(議決権)比率が急激に下がってしまうなどの弊害が起きてしまう可能性がありますので、それを防止することが目的の一つとされています。
発行発行可能株式総数は定款に記載されるため、将来変更する場合は株主総会の決議が必要となります。
どう決めたらよいの?
「発行済株式数と発行可能株式総数はどう決めたらよいの?」というご質問をよくいただくがあります。これは確かに悩ましいのですが、発行済株式数は資本金と関係しています。
例えば、発起人(ほっきにん)(会社の設立者のこと)が「1株あたり1万円で、1,000株発行しよう」
と決めた場合、資本金は、基本的に1万円×1,000株で1千万円となり、発起人は1千万円を払い込みます。
発行済株式数は、公開会社(「譲渡制限がついていない株式を発行している会社」のこと)の場合は、発行可能株式総数の4分の1を下回ることはできません。(非公開会社の場合はこの制限はありません。)
これらの関係性を踏まえたうえで規模や将来の事業拡大などを見据え、どのくらいの株式を発行するかを決めていきましょう。
事業年度を決める際の注意点
事業年度とは、財産及び損益の計算の単位となる期間のことです。会社の事業年度は1年を超えることはできず、1年を2事業年度以上に分けることは可能ですが、1年としている会社がほとんどです。
事業年度の開始月は、自由に決めることができます。定め方は「毎年4月1日から翌年3月31日までの年1期とする」というものです。決算期が事業の繁忙な時期になるのを避ける会社も多いです。
最初の事業年度はどうなる?
定款で「最初の事業年度」を定めることが多いですが、この場合の記載例は「当会社の最初の事業年度は、会社成立の日から令和6年3月31日までとする」という記載になります。
ここで注意を要するのは、この例でいえば、例えば会社成立の日が「令和6年2月1日」だとすると、最初の事業年度が2月と3月の2か月間しかないことになります。
これを踏まえたうえで、会社成立日や事業年度の末日をズラすなどして決めていきましょう。
公告方法を決める際の注意点
公告方法の決め方
株式会社では、各種の公告が義務付けられています(基準日の公告、株式併合の公告、新株予約権証券の提出に関する公告、計算書類の公告等)。
公告の方法としては、
- 官報に掲載する方法
- 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
- 電子公告による方法
の3つがあり、登記事項(登記に記載しなければならない事項)となっています。
これらのいずれかを定款で定めることができます(会社939①)。現在の実務では①官報に掲載する方法が多いようです。また、定款に定めがなければ①官報となります。
なお、③電子公告の方法による場合は、公告ホームページ(ウェブサイト)のアドレスを登記する必要があります。また、電子公告が事故等によりやむを得ずできない場合に備えた記載も認められています。
結局どの公告方法がいいの?
3つの公告方法について、それぞれの特徴は以下のとおりです。
- 官報・・・一般的な掲載方法です。費用は毎年必要な決算公告に限れば1年で6万円程度です。
- 日刊新聞紙・・・掲載費用が50万円以上かかることもあり高額なため、①③に比べ費用的にお勧めできません。
- 電子公告・・・ホームページに掲載すればよいので、費用は毎年必要な決算公告に限ればほとんど費用はかかりません。ただし、法定公告の場合、その公告について監視的な意味で電子公告調査機関に調査の委託をしなければならず、その委託の費用が必要となります。
設立時は①官報をお勧めしたいです。というのも下記でも説明しますが、株式会社に必須の「決算公告」は電子公告以外の方法(官報)にしていた場合は要旨をホームページに5年間掲載すればよいという規定があるためです。
また、法定公告を電子公告で行う場合の調査の委託に費用が10万円以上発生するなど、官報のほうが安くなるケースもあるからです。
決算公告の方法
- 電子公告の場合
上記③場合、貸借対照表(大会社は貸借対照表及び損益計算書)の全文を公告する必要があります(会440①)。 - 電子公告以外の場合
上記①②の場合、貸借対照表(大会社は貸借対照表及び損益計算書)の要旨を公告することでたります(会440②)。またこの場合、当該公告方法に代えて、貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結後5年間、ホームページに掲載すればよい(会440③、会計規147)ことになっています。ただしこの場合は、ホームページのアドレスを登記する必要があります(会911③26号、会施規220①1号)。
これらのポイントを考慮して、適切な株式や事業年度、公告方法を決定することが大切です。具体的な方法については、専門家である司法書士黒坂事務所までお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール
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川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
お客様の悩みに寄り添い、身近な法律・登記の専門家としてその解決に向けたお手伝いをさせていただきます。困ったことがありましたらどうぞお気軽にご相談ください。
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