相続分の譲渡について

Kuroshoshi

今回は、相続分の譲渡というお話です。相続分の譲渡は具体レベルではなく「抽象」レベルといわれます。どのような概念なのでしょうか。

相続分の譲渡とは

 相続人は相続開始から遺産分割前までの間に自己の相続分を他に譲渡することができるとされています(民法905①前段)。相続分の譲渡とは、具体的に「預金の3分の1を譲渡する」「不動産の持分3分の2を譲渡する」という具体的な話ではなく、遺産分割で具体的な相続財産の帰属が決まっていない段階での、遺産全体に対して共同相続人が有する包括的持分又は共同相続人の法律上の地位を譲渡する、という抽象的なレベルの話です。「3分の1の相続財産を承継する」という相続人の地位自体を譲渡することです。

 相続人の地位の譲渡なので、相続分の譲渡を受けた者は、相続人と同じ地位に立ちます。よって遺産分割協議にも参加します。これは、相続人ではない第三者に譲渡した場合も同様です。

 また、以下のQ&Aで具体的に見ていきましょう。

 被相続人Aが死亡し、相続財産として不動産があり、Aの子B、C、D、Eが相続人です。C、Dが自己の相続分をBに譲渡し、B、E間でBがA名義の不動産を相続する旨の遺産分割協議が成立した場合、どのような手続きが必要となりますか。

 この場合、C、Dの印鑑登録証明書が添付された「相続分譲渡証明書」と、B、E間でA名義の不動産を相続する旨を定めた「遺産分割協議書」にB、Eの印鑑登録証明書を添付することにより、A名義の不動産について、相続を原因として相続人1人をB 1人とする相続登記をすることができます(昭59・10・15民三5195)。

相続分の譲渡ってどんなときに活用されるの?

 被相続人の死亡から遺産分割がなされるまでには、かなりの時間を要する場合があります。また、相続人が何人もいて、その取り分について協議が整わないような場合、裁判所を介して手続きをする必要があり、これもまた非常に長い時間がかかることがあります。
 このようなときに、「そんなに長くは待てないよ」「早く相続財産を換価したい」という相続人もいるだろうということでこの制度が置かれました。
 つまり、自己の相続分を他の相続人に有償で譲渡することにより、協議の成立を待たずに一定の財産を確保することができ、その後の分割協議に関わらなくても済むということです。

相続分取戻権(そうぞくぶんとりもどしけん)とは

 遺産分割前に第三者に相続分が譲渡された場合、第三者も含めて遺産分割協議をします。この場合、他の共同相続人はその譲渡された相続分の価格及び費用を支払って、その相続分を譲り受けることができます(民法905条①後段)。第三者入ってくると色々とトラブルが生じやすいため、それを防止するために置かれた制度です。

要件

  1. 相続人以外の第三者への譲渡であること(民法905条①)。
     「第三者が入ると色々とトラブルが生じやすい」という趣旨なので、相続人に譲渡された場合は、このような問題は生じません。よって、相続人に譲渡された場合は、取戻しはできません。
  2. 第三者への譲渡時から1か月以内に取戻権を行使すること(民法905条②)。
     相続分の譲渡を受けた者が、取戻しを受けるかどうか不安定な地位に立たされることから、権利行使期限を定めることにより、譲受人の地位を保護することを目的としています。

投稿者プロフィール

川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎の司法書士 黒坂浩司
川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
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