配偶者の居住の権利について
今回は、配偶者の居住の権利についてみていきたいと思います。平成30年の民法改正で創設されたので比較的新しい制度です。どのようなものなのでしょうか。
目 次
配偶者の居住の権利制度の創設
平成30年の民法改正で、被相続人の配偶者の居住権を長期的に保護することを目的とする「配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)」と短期的に保護することを目的とする「配偶者短期居住権(はいぐうしゃたんききょじゅうけん)」という2つの制度が創設されました(民1028~1041)。
配偶者居住権は、残された配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた場合において、その配偶者に対し、原則として、終身の間、その建物の無償の使用又は収益を認めるものです。また、配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合において、比較的短期間、その建物の使用を認めるものです。
高齢化社会がどんどん進むなかで、被相続人のかなり高齢な配偶者に対して「住み慣れた家から出て行って!」というのは肉体的にも精神的にもかなりな負担です。そこで配偶者の住まいを確保ために創設されました。
以下、配偶者短期居住権は少し細かいので別途後日追記することとして、配偶者居住権に限ってみていきたいと思います。
配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権は、被相続人の配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた場合(「居住建物」といいます)において
- 遺産分割によって配偶者居住権を取得させるものとされたとき
- 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
- 被相続人と配偶者の間の死因贈与契約によるとき
のいずれかによって成立します。
①遺産分割による取得については、配偶者は、相続開始後に、共同相続人間の協議又は家庭裁判所の調停における全員の同意によって配偶者居住権を取得することはもちろん、家庭裁判所の審判によって配偶者居住権を取得することができます。ただし、
- 共同相続人間で配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立しているとき(民1029条1号)
- 配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、かつ、居住建物の所有者が受ける不利益を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(同条2号)
のいずれかに限って、配偶者居住権を取得させる旨の審判をすることができるとされています。
※配偶者居住権が成立しない場合
被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立しません。例えば被相続人甲さん、配偶者乙さん、配偶者以外の者丙さんがいたとすると、甲さんと丙さんが居住建物を共同で所有していた場合です。
居住建物の所有者からすれば、配偶者居住権は対価(賃料など)を得ることができない債務ですので、丙さんに強制的にこの債務を負わすことはできたいためです。
配偶者居住権のメリット
配偶者居住権を設定することで、配偶者は終(つい)の棲家(すみか)を確保することができます。
遺産分割で居住建物の所有権を配偶者に取得させることもできますが、所有権だと評価額が高くなってしまい、税金の関係などで、預貯金などはわずかしか取得することができなくなってしまう可能性がありました。配偶者居住権は所有権よりも評価額が低く、配偶者居住権を取得できれば、配偶者は原則として終身の間居住建物に住み続けることができるとともに預貯金なども充分に取得することができるというメリットがあります。
配偶者居住権を遺言でする際に気を付けるべきこと
「配偶者に配偶者居住権を相続させる」旨の遺言(このように「特定の相続人」に「特定の財産」を「相続させる」という遺言のことを「特定財産承継遺言(とくていざいさんしょうけいゆいごん)」といいます)によって取得させることはできません。配偶者が配偶者居住権の取得を希望しない場合、遺贈であれば遺贈だけを放棄し相続人として遺産分割に加わることができますが、特定財産承継遺言では相続そのものを放棄しなければならなくなるからです。
もっとも、特定財産承継遺言により各遺産の帰属がきめられており、その中で「配偶者に配偶者居住権を相続させる」旨が記載されているような場合、当該遺言の解釈としては、配偶者居住権の部分を遺贈の趣旨と解するのが遺言者の合理的意思に合致するものを考えられ、そう解釈することについて特段の疑義が生じない限り、配偶者居住権の設定の登記ができるとされています(令2.3.30民二324民事局長通達・民月75巻5号289頁)。
配偶者居住権の内容
居住建物の使用及び収益ならびに禁止事項
配偶者居住権を取得した配偶者は、無償で居住建物の全部の使用及び収益をすることができ(民1028①)、居住建物の所有者は、これを受認すべき義務を負います。居住建物を賃貸して利益をあげるなど収益をする場合は、配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければなりません(民1032③)。
また、配偶者は配偶者居住権を譲渡することができません。住まいを確保するための権利なので、譲渡することはその趣旨から外れているからです。
配偶者の注意義務
居住建物は、他人(居住建物の所有者)の所有物ですので、配偶者はその使用及び収益について善管注意義務を負います(民1032①)。善管注意義務とは、簡単に言えば「一生懸命真剣に」といった意味です。
居住建物の修繕
配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の増改築をすることができません(民1032③)。
居住建物の修繕が必要な場合は、配偶者がまず修繕することとされ、居住建物の所有者は、配偶者が相当の期間内に修繕をしないときに修繕をすることができます(民1033①②)。
費用の負担者
配偶者は、通常の必要費(例えば「通常の修繕費」や「固定資産税」など)のみ負担します。居住建物の所有者は、臨時または特別の必要費(例えば「台風による修繕費」など)や、有益費(例えば「雨戸の新調費」など)を負担します(民1034①)。
配偶者居住権の登記について
配偶者居住権は原則として配偶者が亡くなるまで存続し、長期間存続する権利となりますので登記することができます(民1031①)。居住建物の所有者には、配偶者居住権の設定の登記をする義務があります。
以上、配偶者居住権について説明しました。比較的新しい制度なので認知度はあまり高くないかもしれませんが、配偶者居住権を設定することによってメリットもあります。登記することもできますので、もしわからないことがありましたら専門家である司法書士までぜひともご相談ください。
投稿者プロフィール
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川崎で開業しております司法書士の黒坂浩司と申します。
得意分野は相続関連手続き、不動産登記、法人登記(会社設立等)です。
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